「日本の食・米粉セミナー2004」の概要

 昨年同様、総会に引き続き「日本の食・米粉セミナー2004」を開催。本年は「発見・認識を行動に! 日本の食と普及し始めた米粉食品」と題して、食用熱帯植物研究家の吉田よし子さんによる「アジアの多様な米の粉食文化」についてご講演をいただくとともに、米粉食品に関する取組事例として、「兵庫県小野市における米粉(酒米)パンの取組み」を小野市役所地域振興部 市橋茂樹氏から発表頂きました。また、近畿米粉食品普及推進協議会事務局から「近畿米粉食品普及推進協議会における1年間の活動報告」を発表いたしました。

 講 演

「アジアの多様な米の粉食文化」   講 師:吉田 よし子 氏

 吉田氏は、アジアにおける食文化を通じ、日本において米粉食品を普及させることの意義について、スライドにより各地の食文化をご紹介いただきながらご講演をいただきました。

  日本の食一米粉セミナー2004
米は麦より必須アミノ酸リジンが多い
  人間の主食は大体、米、小麦と雑穀そして芋(バナナ、パンの実、サゴヤシの髄)
小麦と雑穀は殆どすべて粉食。巧く皮が除けないから。 加工方法は粉粥からパン
米は殆どすべて粒食。原始的な道具で皮が除けるため。加工方法は粒粥
  但し皮を除く過程で必ず出来る砕け米は、@水に漬けて糊状に擦潰す。−原始的
                           A乾燥したまま粉にする。−近代的
などで、巧みに利用してきた。
@がシトギで、米食国の多くで昔から屑米はシトギにして食べた。 ヴェトナムやタイ
その他の東南アジアでは米麺、生春巻用の皮、お好み焼き、蒸し パン等として、
主食にも間食用にも利用している。 なお、おしんで有名になった「ダイコン飯」も、
飯とはいっても雑炊なので、ダイコンの根だけでなく葉も入れ、米も当然砕け米を使
っていた。

      春巻きの皮の作り方
@米粉は水と混ぜても、薄いとすぐ水が分離するので、少し加熱して一部の澱粉を糊
化させて粘りを出してから、熱した蒸し器の中に敷いた布の上に、薄く流して蒸し上げ
る。これが生春巻の皮。これを乾燥させれば普通の春巻の皮。生を切れば太いのも細
いのも、様々な生麺になる。
A米の粉を練って大きな固まりにしておく。これを熱い鉄板にギュウウツと押し付けて持
ち上げると、鉄板の上にハルマキの皮が残る。表面が乾いたら、焦げないうちにはが
す。ハルマキの皮として使う。バンコックの街頭では、お菓子屋さんが10センチにも満
たない小さなハルマキの皮を焼きながら、この皮に包んで食べる色とりどりの糸のよう
に細い飴を並べて売っているのを見たことがある。
B屑米で麺や蒸しバンを作る シトギを乳酸発酵させると粘りが出る。これを細い穴か
ら押し出せば麺になるし(ビーフンなど)、重曹や砂糖を加えて蒸せば蒸しバンが出
来る。酸味を消すには石灰等の水溶液を少し加えればよい。お好み焼きの台にもなる。
 なお、東南アジアの人は、米のご飯を食べないと食事とは呼ばず、麺やパン、お好
み焼きなどを食べるのは「おやつJである。フィリピンでは午前と午後にミリエンダの時
間があり、ご飯以外のあらゆるものを食べる。例えば今ならインスタント麺、スパゲッテ
ィ、サンドイッチやハンバーガーはすベてミリエンダだ。そして米が原料でも、チマキ
や麺、蒸しパン等はすべておやつに入るが、逆にミリエンダの時間にはご飯は絶対
に食べない。つまり、ミリエンダとは食事と食事の間に食べる間食と規定しているのだ。
 即ち、食事と呼ばれるのは粒のままの米を炊いた物、つまりご飯を食べる時だけで
ある。
 そのため「食事を済ませたJという代わりに「ご飯を食べた」というのは決して日本に
限らない。アジアの米食文化地帯では「食事をした」と「ご飯を食べた」は全く同じ意
味に使われている。
   インドの米食地帯
 インドは北や西部乾燥地帯は小麦と雑穀が主食だが、東部や南は米が主食である。
今回はインドのシトギを使った食品を紹介したい。ユニークなのは、大部分のインドの
米のシトギを使った食品には、日本でマッペと呼んでモヤシにしている黒い小さな豆
を10から30%混ぜていることであろう。インドではこの豆をウラッドと呼び、皮が固い
のでダルにしたものを使う。ダルとは一度豆を水に漬け、皮が水分を含んだところで力
を掛けて、豆を二つに割ると同時に皮をはがしてしまったものだ。皮が無いので煮えや
すく、消化もよいので、インドでは様々な豆をダル加工して市販している。
 インド南部では先ず米と豆を別々に水に漬け、さらに擦潰して一晩発酵させる。発
酵するとドウに粘りが出るので、米7から9に対してウラッドを1から3程度混ぜる。さら
に時には砂糖も少々加えたり、場合によっては重曹も入れてから丸い型に流し入れ
て蒸す。これが朝食用の蒸しバンであるイドウリである。ちょっと見には、日本の玄米
パンのような米の蒸しパンだが、栄養学的には小麦のパンは勿論、米だけのパンよ
り優れた食品となっている。
 昼には同じドウを薄く大きく焼いてジャガイモなどのカレーを巻き込めば、ドウサと
いう立派な一品料理になる。それでも残ったドウは翌日には少し酸っぱくなっている
ので、ホットケーキぐらいの大ききで、ドウサより厚目に広げ、トマトやスパイスなど並
ベて焼くと、インド風ピザかお好み焼きといったオタッパムができる。トマト味はで少し
酸っぱくなったドウもおいしく食べられる。
 これらの食品は、見た目には米製品であるが、豆が10から30%近くも入っているた
め、米だけだと不足しやすい必須アミノ酸が補われて、必須アミノ酸のバランスのよ
い、立派な食品になっている。
 昔から「米を一日に一升食べれば生きていける」といったのは、普通に米だけを食
べていると必須アミノ酸であるリジンが不定して病気になるのだが、その米を毎日一
升食べると、辛うじて最低必要量のリジンが取れるため生きてゆけたからだ。なお、
一升飯を食べ続けると胃拡張になるため、昔は重労鴇をする人の多くが胃拡張に苦
しんだ。
 では小麦も大量にとればいいかというと、小麦のリジン含量は米よりずっと少ないの
で、小麦だけから必要な量のリジンを摂取することは不可能だ。つまり物理的に食べ
られないほどの   こで麦類を主食にしてきた人々は、麦畑に豆を混ぜ植えして、
麦と豆を一緒に粉にして粥にしたり、麦の粥やパンに豆のスープを添えたのである。
 現在の私達の食料事情では米からのみリジンをとる必要はないが、それでも同じ
量の米と小麦なら、米のほうが必須アミノ酸のリジンが多いのだから、米が余ってい
るなら、パンを始め、東南アジアで広く食べられているような米粉ベースのお好み焼
き、麺類やクレープ類、そしてお菓子にも、もっともっと使ってほしいものである。
  2004年7月12日   吉出よし子
 事例発表

「小野市における米粉(酒米)パンの取組み」
            発言者 小野市役所地域振興部 市橋茂樹 氏

 市橋氏には、本年4月から本格的に実施されている「小野市における
米粉(酒米)パンの取組みの経過」について、ご説明をいただきました。
 以下に「山田錦 酒米 パン」の概要をお知らせします。

 ☆ 山田錦米パンの特徴
 (成分) 「山田錦」の米粉に、グルテン、砂糖、食塩、脱脂粉乳、生イーストなどを使用
       通常の小麦パンよりたんぱく質が約30%多く含まれる
 (種類) 「山田錦米パン工房」では、食パン・調理パンなど50種類以上
       学校給食では、コッペパンとして提供(頭に良いとされるDHA入や果実入のパンも製造して
       います)
  
小野市にしかないオンリーワンのパン
 小野市産の「山田錦」を用いたパンは、小野市の小・中・養護学校の学校給食および「山田錦米パン
 工房」の小売のみで扱っています。(限定生産で、他店での委託販売や地方発送はしていません。)

 
☆ 山田錦米パンの誕生まで・・・
 @ 兵庫県の内陸部は、小野市をはじめとして、「山田錦」の産地で、昔からたくさん作付けをしてい
  ます。
 A 最近、お酒の中でもビールやワイン、焼酎の消費量に比べ、日本酒の消費量が減っています。
   「山田錦」の多くは契約栽培で作っているため、このままでは栽培面積がますます減少する一方
  です。
 B これまでたくさん作っていた「山田錦」の栽培農家に、これからも多く生産してもらうため、「山田
  錦」をお酒の原料以外にも加工食品として使えないだろうかと考えました。
 C 米とともに私たちの主食として欠かせないものとなっているパンに着目し、パンの原料を小麦で
  なく「山田錦」で作ることにしました。
 D 米粉パン製造技術の第一人者で、米粉パンの普及を進められている(有)福盛パン研究所の
  福盛先生の指導のもと、全国初の「山田錦」100%使用の米パンが完成しました。

 
☆ 山田錦米パンで小野市はこう変わった ・ ・ ・
 ・
地域活性化     小野市「ひまわりの丘公園」内「山田錦米パン工房」では、開店後、数時
               間で1日の予定量が完売しています。市内や近隣からだけでなく、連日阪
               神間や遠く県外からお買い求めの方があります。
 ・
新たな需要拡大  食べた方から、「もちもちしている」、「少量でもお腹がいっぱいになる」、
               「自然の甘味がある」、「良い香りがする」との声が増えることで、日本酒の
               消費量の増減に左右されることなく、安定的に作り続ける道筋がつきまし
               た。
 ・
子供たちの食育  市内の小・中・養護学校では、これまで給食で週2回小麦パン(原料は
               大半が輸入)を食べていましたが、16年度から地元で作られた「山田錦」
               を用いた「おのっこパン」(愛称)に変わり、週3回のごはん給食とあわせ
               て主食は全て地産地消、市内のお米でまかなわれます。未来を担う子ど
               もたちが成育期に、地域でとれた食材を食べることは、心身ともに良い影
               響が期待されます。
米粉食品の試食展示会の概要

 今回のセミナーでは、講演会と並行して米粉食品の試食展示会を開催いたしました。試食展示会には多くの米粉食品が出品され、会場では参加者との意見交換が活発に行われていました。

 米粉食品の試食展示会に出品されたものは以下のとおりです。

パン工房・青い麦:米粉パン(10種)
グリコ栄養食品(株):マドレーヌ・クッキー・ラーメン・うどん・シュークリーム
アトリエ・イグレック:ロールケーキ・フィナンシェ・ガレット
山内製粉株式会社:お好み焼・たこ焼
パウダ−テクノコ−ポレ−ション(有):ラブライス
片山製粉(株) :米粉パン用プレミックス粉
ニシカワ食品(株):ロールパン(2種)
(財)清洲の里:パン各種
万葉の郷・ぬかづか:パン・クッキー
フリブール:パン各種
サカモト・キッチンスタジオ: ハヤシライス・りんごのほったら菓子
(株)山一パン総本店:食パン